チタンの指輪の安全検証


 指輪の選択には、デザイン性のほかにも素材の持つ魅力&性能=軽い・キズが付き難い・変形し難い等の強靱性、お手入れやサイズ直し等のメンテナンス性、更には対金属アレルギーなど安全性も大事な要素となります。
 特に、安全面で見落とされがちなのが「切断性」であり、タングステンの指輪のように素材の強靱さが過ぎると怪我や事故など万一の際に指輪を切断する工具が特殊性を増し、又、切断経験者も少なくその対応が難しくなります。
 当工房では、純チタンを素材にオリジナルデザインリングを沢山手作りしています。一般にはチタンはその硬さから切断が非常に困難な素材と誤解されてますので、当工房で造られる純チタンの結婚指輪を切断しその難易度を検証いたしました。

5mm幅、1.2mm厚の純チタンの指輪:糸ノコ刃=0番:安全安心の検証4=YouTube動画でご覧下さい
【純チタンの指輪は、糸鋸で20秒で切断することができます】

 切断する指輪と糸鋸のデータ:5mm幅、1.2mm厚、純チタン。
 糸鋸刃=0番(細)
このYouTube動画は指に嵌めた状態での切断ではありませんが、純チタンならば糸ノコで短時間で簡単に切断できることがお分かり頂けることと思います。

<万力での切断作業と指に嵌めた状態での切断作業の相違点を以下に記します>
 ・指と指輪の隙間に、指を傷つけない為の「金属の薄い板」を差し込んでから切断作業に掛かる。
 ・指に嵌めた状態では、万力に銜えて切るときのように角度を着けられませんので、糸ノコの角度は指輪の表面とほぼ水平になります。
 ・糸ノコでの切断時にも摩擦熱が指に伝わりますので、濡れぞうきんや霧吹きなどで冷やしながら切断していきます。
 ・指に嵌めた状態では、万力のようにガチッと固定できない為最大効率で切断できないため切り終るまでに2倍位の時間が掛かります。

・YouTubeには、紐や糸を使って「抜けなくなった指輪」を結構簡単に抜く方法が紹介されてますので、切る前に一度お試しください。/2016.5/25追記。

・万一の際の、指輪の外し方:指輪を、指の付け根から皮膚や肉を寄せないように大きく回しながら関節の手前まで移動させます。次に、手の甲が上に向くようにして、指輪を大きくゆったり回すようにして間接に掛かる所まで移動させます。関節のところに指輪が掛かったら、指輪を上にグーッと引き上げます。すると、関節上部と指輪に隙間が生じます。指輪を上に引き上げた状態でゆったり大きく回すようにして関節を抜くことができます。この方法を使えば、指輪のサイズでいえば一号程度抜き易くなります(指を水で冷やして細くし、石鹸も使えば更に抜き易くなります)。 注意! この方法は、万一の時の保険的な抜き方ですので、この抜き方で指輪のサイズを決定してはいけません。/2018.7/29追記。

10mm幅広の純チタンの指輪:安全安心の検証3=ダイヤモンドホイールで10分で切断終了
 酸化チタン:バーナーで熱して色付けしたことにより少し硬くなった純チタンの指輪、しかも10mm幅ととても幅の広い指輪を切断します。
 今回も指の甲側で指輪を切断してみます。切断し終えて解ったことは、ダイヤモンドディスクでの切断の場合は摩擦熱が直ぐに高くなり易いので「グッグッと切ったら直ぐ冷やす」を繰り返すことが必要があるということです。そして、糸ノコ又はダイヤモンドディスクで切断する場合は、シルバーでもゴールでもプラチナでも純チタンでも、ほぼ同程度の難易度・所要時間・発熱状況だと感じます。リングカッターとの比較は私が使った経験がないので判りません/2015.9/7追記。
10mm幅のチタンの指輪を切断する検証  3回目の切断検証=チタンの指輪(Titanium995=純チタン、14.5号、10mm幅、1.2mm厚)。バーナーで炙って色付け(酸化チタン)した指輪です。前回の検証時、この指輪は万力に挟んだ(切り易い)状態で糸鋸で一ヶ所切断(所要時間=1分)してあります。
10mm幅のチタンの指輪を切断:ダイヤモンドディスク  今回は、リューターにダイヤモンドディスクを付けて高速回転させて切断してみます。
10mm幅のチタンの指輪を切断:切り始め  これから切り始めます(ダイヤモンドディスクは新品)。怪我防止のプロテクターは、金ノコの刃を切断して短くしたものです(隙間ゲージ=シックネスゲージを使う方が、薄くてしなやかで安全で安心です)。
10mm幅のチタンの指輪を切断:途中まで切る  途中まで切り進んだところです。切るコツは、無理して進まないことと、摩擦熱で直ぐに熱くなるのでびしょびしょにぬらしたタオルか霧吹きで吹き掛けながら冷やすこと。ダイヤモンドディスクを指輪にグッグッと2回くらい押し当てたら熱くなるので、直ぐに冷やして又ぐっぐっと押えて切る事の繰返しです(無理に切り進まないこと!)。
10mm幅のチタンの指輪を切断:切断終了  切り始めてから10分ほどで切断終了。実際の作業ではダイヤモンドディスクが指輪を切っている時間よりも、冷やしている時間の方が多かったです(7分位は冷やし)。切断写真の切り口が大きく開いているのは、糸鋸で一ヶ所切断されていた指輪を使ったので、切断後に右・左が大きくズレています。
10mm幅のチタンの指輪を切断:2つに切断  切断終了後、もう一度、この指輪の残り部分を指に持ってダイヤモンドディスクで切断してみました。所要時間は、5分ほどで、冷やしの時間が半分は掛かっています。ダイヤモンドディスクは細く削って進む。糸鋸は切り進む。特に、結婚指輪など5mm幅程の細さまでは、糸鋸とダイヤモンドディスクでの切断を比較した場合、糸ノコの方が熱を余り持たず着実に切り進んでいきます。ただ、10mm幅やそれ以上に太い指輪の場合は、ダイヤモンドディスクで切断する方が格段に作業はし易いと思います。追伸、ダイヤモンドディスクは1本=3000円以上のそこそこ高級品を使いましたが、10mm幅の純チタンリングを2ヶ所切断しただけで既に相当摩耗しています(切断性能=がた落ち状態です)。
10mm幅のチタンの指輪を切断:3mm幅の場合は、簡単な切断作業  チタンの指輪(Titanium995=純チタン、13.7号、3.0mm幅、1.2mm厚)。バーナーで炙って色付け(酸化チタン)した指輪です。ダイヤモンドディスクで、前回切った指輪の切れ端を手に持って切断してみました。やはり摩擦熱を冷やしながらの作業で2分程で切り終えました(糸ノコの方が熱も持たずに早く切れます)。

純チタンの結婚指輪:安全安心の検証2=糸ノコで2分で切断
 酸化チタン:バーナーで熱して色付けしたことにより少し硬くなった純チタンの指輪を切断します。
 今回は手の甲側(前回は掌側で指輪を切断)で指輪を切断してみます。やはり、万力で押えて動かないようにして切りやすい状況で切断する場合に比べて余計に時間が掛かります。今回は、プロテクターとして何処にでもある少し厚めのボール紙を指と指輪の間に差し込んで切りましたが、ステンレス等の金属薄板を使う方が安心で迅速に切断できることと思います。
 指輪を切り終えて思うことは、造り手にとっては(自作・他作に無関係に)丹精込めて造った指輪ですので「切りたくないな〜」というのが本音であり、皆様にとっては思い出の詰った何ものにも替えがたい大切な指輪です。「きつくなったな〜〜」って感じ始めた段階でサイズ直し等ご相談されることをお薦めします。/2015.9/1追記。
3mm幅のチタンの指輪を切断:糸鋸で切り始めます  2回目の切断検証=チタンの指輪(Titanium995=純チタン、13.7号、3.0mm幅、1.2mm厚)。バーナーで炙って色付け(酸化チタン)した指輪です。
3mm幅のチタンの指輪を切断:切断の途中経過 糸ノコで切り始めて・・・途中経過です。
3mm幅のチタンの指輪を切断:切断終了  切り終りました(切り始めから2分で切断完了)。ただ、プロテクター用に使った1mm厚のボール紙が少し切れてしまったので位置をずらして、傷付けぬよう気を使いながら切り進みました(プロテクターにはステンレス製の隙間ゲージ=シックネスゲージを使うのが安全で安心です)。
3mm幅のチタンの指輪を切断:切断面の様子  切り終りの拡大写真です。糸鋸を毎日のように使って作品造りしておりますが、チタンはシルバーやプラチナよりも切るのが難しく時間が掛かるという印象はありません。糸鋸で指輪を切断する場合は、チタンもシルバーもプラチナもほとんど同じ時間で切断できます。金属の種類によって、切ったり削ったりする際に刃先に伝わってくる感触が違います。アルミニウムは、柔らかいという印象ですが刃先に伝わる感触はカサカサという乾いた感じです。シルバーは、アルミに比較して硬い印象で「刃が跳ね返される」感じですが、粘りのある素材なので刃先にはしっとり感が伝わってきます。プラチナは、シルバーに比較すると「硬い!跳ね飛ばされる」という印象を持ち、刃先に伝わる感触はガサガサ感です。チタンは、プラチナに比較して「硬過ぎッ!」という印象で、しっかり作業をしなければ刃先が滑ってしまいます。糸鋸で切り進む際には刃先にギシギシッといった感触が伝わり「プラチナのガサガサ感」に残っていた“粘り”のような印象が感じられません。
3mm幅のチタンの指輪を切断:切断された指輪  内側も色付けされた純チタンの指輪です。本来は、デザイントップを切断することはありませんが、純チタンの指輪を切っていることが解りやすいように敢えてデザインを切断しました(本来は、指輪の下部を切ります)
3mm幅のチタンの指輪を切断:10mm幅の切断実験  10mm幅の純チタンリングです。指輪を万力で押えての切り易い状況下では1分も掛からずに切断終了(写真)ですが、指に嵌めたままでは切り難いので切断に30分を要します。

純チタンの結婚指輪:安全安心の検証:工具の扱い方
工具:糸鋸の扱い方  工具の扱い方:糸ノコの刃に弓の重さ+腕の重さを加減して切り進みます。両脇を絞め体をコンパクトにし、左手は銀板に添え、シンプルにストロークさせます。 決して、押さえつけるように急いで切ろうとはせずに、ブレを小さくして前後にシンプルにシンプルに動かします。
 写真撮影のため、掲載写真では万力の右側で切っていますが、実際には、万力の左側で切断します(右手に糸ノコ、左手で銀材を抑える方が自然で楽です)。
工具:ルーターの扱い方  工具の扱い方:リューターは、両脇を絞め体をコンパクトにし、左手と右手を写 真のようにガッチリ連結し、右手の薬指のしなりを利用して小さな動きで削ります。 リューターを掴む指を動かして削ることはあまりしません。
 リューターの刃と薬指先は超接近させて、小さな作業範囲に気持ちを集中させて削ります。刃が薬指から放れていくに従い不安定になっていきますので無理をしないで持ち交えること。
工具:ヤスリの扱い方  工具の扱い方:ヤスリは、両脇を絞め体をコンパクトにし、直線的にシンプルに動かし、腕の重さで削ります。 そしてヤスリを持つ手に楽をさせてあげること。つまり、リング等を押さえる側の手を固定しないで“自由に動かし”ヤスリに対応させてあげるということ。
 ヤスリ掛けの要素は、ストローク:長い・短い、スピード:早い・ゆっくり、回数、腕の重さの乗せ方と押さえつける強さの加減。
 これらの要素を組み合せてコントロールすることにより思いのままに形を造ることができます。

純チタンの結婚指輪:安全安心の検証1=糸ノコで3分で切断
 純チタンの結婚指輪は銀細工用の糸ノコ刃で3分程で切れました(万力でしっかり押えた純チタンの指輪は、30秒程で切断し終えました。初心者(一日教室の生徒さん=男性・女性)でも30秒〜1分以内で切れました)。/2015.8/24記。
 普段は主に銀細工を手掛けておりますが、銀細工用の工具を使い毎日のように純チタンをヤスリで沢山削り、ハンドリューターに付けた刃物で点描を描くように沢山の刻みを彫り込んでチタンの指輪をデザイン彫刻しております。
 更に、初心者の方にチタンの指輪を手作りさせてお持帰りいただく「チタンの指輪手作り一日教室」も実施し、これまでに何組ものカップルが造ったその日の内にお持帰りいただいております。
 ですから、「チタンは切れないから危険!」という情報が広まったことに対して「何で???」という不思議な感覚に陥りました。
 チタンは硬くて強いことで一般に知られてますので、超硬の刃を持つ特殊な装置かダイヤモンド以外では切れないと皆さん思い込んでおられるのかも知れませんね。
第一回検証:3mm幅のチタンの指輪を切断:使用する物  切り終えてからの写真ですが、今回使用した道具です。チタンの指輪(Titanium995=純チタン、15号、4.5mm幅、1.2mm厚)、糸ノコと刃(彫金用の0番=細かい)、金のこの折れた刃、紙ヤスリ(400番)です。
 実際には、金属用の金ノコ刃でも切れますが、糸ノコ刃の方が楽に切れます。
第一回検証:3mm幅のチタンの指輪を切断:手入れ  金ノコの刃を紙ヤスリで擦って丸めて、指と指輪の間に差し込んだときに痛くないようにします。
第一回検証:3mm幅のチタンの指輪を切断:指輪の間に挟む  切るときに糸ノコ刃がずれても指に当たらないように、指と指輪の間に少し強引に差し込みます(一枚一枚ばらせる「隙間ゲージ=シックネスゲージ」ならば、薄くてしなやかなので指と指輪の隙間に差し込み易く、金属なので強くて安全で使い易いです)。
第一回検証:3mm幅のチタンの指輪を切断:切断開始  自分の指で行います。糸ノコの刃は、彫金で一般に使用される細かなものです(0番=銀細工で使用しているもの)。
第一回検証:3mm幅のチタンの指輪を切断:途中経過  糸ノコでチタンの指輪を切断している途中経過です(指がなるべくブレないよう、左手を板に押さえ付けます)。
第一回検証:3mm幅のチタンの指輪を切断:切断終了  切り始めてから3分程で切り終えましたが、糸ノコ刃での摩擦熱が高まるのを防ぐため途中で2回濡れタオルで冷やしました(切断に要する時間は、指輪の幅や、厚さで変わります)。
 表面が発色されて硬化している酸化チタンで糸ノコ刃が滑ってしまう場合には、彫金用のヤスリかダイヤモンドのヤスリで表面を一皮剥くように酸化チタンの薄い膜を削り落とせば、もとのチタンが表れるので糸ノコで切り易くなります(酸化の度合いによっては糸ノコでそのまま切れることもあります)。

純チタンの結婚指輪:切断検証を終えて
 彫金材料・工具屋さんは東京の山手線:JR御徒町駅近くに幾つもあり、その内の「コモキン」さん、「シーフォース」さんは通信販売もやってます。

 上記のことが、救急医療現場の方のお役に立てれば、幸いです。

 最近では、指輪本来の魅力であるデザインや造りよりも、金属の希少性や金属の強じんさに興味や価値判断を移行する人も居られるようです。
 タンタル・イリジウム・タングステンといったチタン以上に硬い金属で造られた指輪も販売されているようですが、硬すぎると万一の時にその対処に時間が掛かることは確かなことで、あまり強じんすぎる指輪は避けた方が無難といえるかもしれませんね。
純チタンの結婚指輪:モース硬度の比較に思うこと
 【ダイヤモンド=10、コランダム=9、タングステン=7.5、鋼(ハガネ:ヤスリ・糸ノコ刃)=7.5、石英=7、イリジウム=6.5、タンタル=6.5、チタン=6、ハフニウム=5.5、ジルコニウム=5、ガラス=5、プラチナ=4.5、鉄=4、銅=3、アルミニウム=2.75、ゴールド=2.5、シルバー=2.5】というようになります【参考:Wikipedia】。

 一蓋にモース硬度だけで、「切れる・切れない」の比較判断はできませんが、対処する方法を見い出すためのヒントにはなります。
 ちなみに、ガラスはモース硬度は「5」ですが、ハガネ「7.5」のヤスリや糸ノコでは切れません。
 では、何故糸ノコ刃でチタンが切れるのにガラスにはキズ一つ付けられないのか?
 糸ノコを毎日のように使っていて、糸ノコの切ることに特化した弓形構造とやはり切ることだけに特化した刃の構造が、チタン(金属)に食い込みやすく切り進みやすい状況になっているからだと理解しています。しかし、ガラスに対しては糸ノコ刃の構造が極小にギザギザ尖っていないのでガラスに食い込むことが出来ずに上滑りするのではないかと考えています。

 貴金属の指輪の場合、純度100%だと柔らか過ぎてキズが付いたり凹んだり変形し易いので、強度を増す意味で他の金属を加えた合金の指輪となりますので、実際には上記数値よりも硬さは増しています。

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